<お話を伺った方>
一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS) 五十井薫様
Agility Design株式会社 中野安美様
女性リーダーの育成が重要視される中、日本情報システム・ユーザー協会(以下、JUAS)では、リーダーを目指す女性を支援する勉強会を開催しています。本プログラムでは、チームタクトで「G-POPぐるり(※)」を実施。自己成長と、キャリアやワークライフバランスを考える場を提供しています。
女性リーダーが直面する課題を共有しながら、組織を超えたエンパワーメントの輪を広げる取り組みについて、運営担当のJUAS 五十井薫さんと、企画担当のAgility Design 中野安美さんに、お話を伺いました。
概要
<課題>
- 女性管理職が企業組織内では少数のため、同じ悩みを持つ女性同士で相談できる環境がない
- 女性リーダーのロールモデルが身近にいないため、リーダーを目指す女性社員にとって、将来ビジョンが描きにくい
<活用成果>
- キャリアやワークライフバランスを考えた人生のゴール設定と、リフレクションの習慣化による着実な成長
- 社外のリーダーを目指す女性メンバーとの不安や悩みの分かち合いによる、安心と勇気の与え合い
<チームタクト活用のポイント>
- お互いのシートが閲覧しやすく、共通点から安心を、ー新視点から学びを得ることができた
女性限定のグループコーチング 女性ならではの悩み解決の場
ー「リーダーを目指す方のためのグループコーチング勉強会~朝活でセルフマネジメント力アップ!【オンラインライブ】」とはどのような勉強会ですか。
五十井:週1回1時間のオンラインでのグループコーチングと、半日間のリアルとオンラインのハイブリッド勉強会を組み合わせたセミナーです。JUAS会員企業から、女性リーダー、女性リーダーを目指す方々に参加いただいています。参加者16名を4グループに分け、それぞれに会員企業の女性管理職がファシリテーターとして関わる形態を取っています。現在のところ、年に1度、約2カ月間にわたって開催しています。
セミナープログラム
第1回 オリエンテーション・自己紹介
第2回 グループコーチング
第3回 グループコーチング
第4回 女性リーダー講演・座談会
第5回 グループコーチング
第6回 グループコーチング
第7回 グループコーチング
第8回 グループコーチング・振り返り
グループコーチングでは、G-POPぐるりに取り組んでいただきます。G-POPぐるりにより、自分の目標を毎週振り返ることで、自己成長を後押しできるのです。
事前にチームタクトでG-POPシートを配布し、各自ご記入いただきます。当日はまず1分間の瞑想で心を落ち着かせます。その後「24時間以内にあったありがたい話」を各自一言ずつ話し、気持ちをポジティブに整えてから、G-POPぐるりを開始します。
ーどのような経緯でこの勉強会を始めましたか?
中野:経営塾である中尾塾でG-POPぐるりを経験し、他者視点からの多くの気づきが得られる学び合いのスタイルが女性リーダー育成に良いのではないかと着想を得ました。私自身、会社員時代に管理職になった際、ロールモデルがおらず、相談できる人もいなくて苦労しました。このような女性ならではの悩みの経験が、本セミナー実現の原点にあります。
女性リーダーはIT分野ではまだまだ少数派です。同じような悩みを持つ人との交流で、安心感や学びを得ることができると確信しています。
また、キャリアを築く上でワークライフバランスがどうありたいかを考えるチャンスを作りたいとも考えました。
JUAS女性会員を集めて実際の効果を試してみたいと相談し、五十井さんやJUASの姉川さんの賛同を得て、企画設計から携わらせていただいています。
五十井:G-POPぐるりを行うオンラインセミナーの実施には時間がかかりました。2019年当初は、オンラインでグループワークが効果的にできるのか、当協会内で合意形成を図る必要がありました。しかし、コロナ禍でオンラインが当たり前になったことが後押しとなりセミナー開催に至りました。
中野:企画を通す際に、説明と熱意が不可欠だったと思います。なぜ女性限定なのか、男性職員からも共感を得られるまで何度も説明した覚えがあります。
五十井:IT分野の場合、セミナーに女性リーダーの参加者を増やすことが課題でした。そこで、2007年ごろ、女性のコミュニティーを立ち上げ、2年ほど続けていました。そこに中野さんも入ってくださっていました。さらに多くの女性に参加してほしかったので、中野さんからの提案に賛同したのです。
女性リーダーとしての成長 人生をかけたゴールを言語化する機会
ーなぜG-POPぐるりを行うことにしたのですか
中野:自己成長を促すのに、G-POPシートが一番使いやすいだろうと考えていました。G-POPシートは慣れない人にも書きやすく、仕事でも活用しやすいのです。
人生かけたゴール、今年、今月、今週と目標をブレイクダウンして考えやすいのもメリットです。
五十井:G-POPシートを毎週記入し続けていると、期初ではあまり書けなかった人が納得感を持って書けるようになっていきます。ファシリテーターをされる方であっても、養成期間の初めは人生のゴールが書けないことが多く、G-POPシートを繰り返し書くことの重要性を認識していらっしゃいます。
所属企業の枠を越えて励まし応援し合う 仲間とロールモデルに出会える場
ー参加者の満足度はいかがでしょうか。
五十井:4期~6期のアンケート結果からは、「満足度」については7割の方が「非常に満足」と回答されました。また、32名のうち、31名が「他者に薦めたい」と答えています。
中野:アンケートではポジティブなコメントが多い印象です。リピーターもいらっしゃいます。

五十井:これまで6期開催してきた中で、20名集まったこともありますが、毎回、募集には課題感を感じています。改めて、女性同士のエンパワーメントの必要性と価値を各企業の上層部にお伝えし、背中を押してもらえると良いのではないかと思います。
中野:役職が上がって悩んでいる人が参加者の大半を占めます。同じような立場の人たちとの情報共有と振り返りに期待して参加されているのです。
今後のキャリアをどうしていくか、経験を積んだからこそ悩んでいる人も多く、上司からの薦めがあって参加される印象です。
五十井:第6期参加者の事後アンケートでは以下のコメントが寄せられました。
チームタクトでのG-POPぐるりについて
・G-POPぐるりを足掛かりに、計画倒れにならず行動を継続でき、月次目標を達成できました。
・振り返りという習慣は大変新鮮で、自身の考えを整理し、行動に移していくことに大変有効でした。PDCAを回すことが定着していっていると強く実感しました。
・チームタクトで業務を洗い出すことで、不十分な点が明確になり、学びをより具体的かつ明確な形で得られました。
女性リーダー交流について
・対象者を限定(女性・IT・リーダーを目指す)したことで、違う会社でもちょうど良い距離感でグループワークができました。
・職場は、男性ばかりで仕事を頑張っている女性の姿を間近で見る機会がなく、なかなか将来の目標やキャリアビジョンも考えにくい環境です。女性で、管理職などリーダーとして働かれている方々のお姿をとても近い距離で見られて、良い影響を受けました。
・なかなか女性管理職の方の話を聞く機会がなかったことから、ファシリテーターの方からのコメントも大変参考になりました。
社外コミュニティー交流について
・社外の方といろいろお話することができたこと、繋がりを持てたことも、普段の行動範囲を超える貴重な経験になりました。
・他の参加メンバーと共有していくことで、自分だけでは気づけなかった新たな視点や意見を交換し合い良い刺激になりました。
・メンバーから前向きなフィードバックが多く、モチベーションをあげていけました。 他の人も頑張っていることが刺激になりました。
スキル面について
・振り返りの重要性や効果は実感できたが、コーチングやマネジメントに紐づけて考えるのが難しく、そこのフォローがもう少しあるとより有意義な時間になると思います。
・スキルの面でも、自分の考えを相手に伝える能力やプレゼン力が上がったと感じます。
ー会員企業の女性管理職がファシリテーターを担うのはなぜですか。
五十井:ファシリテーターの方々には、参加者にとってのロールモデルになってほしいと考えています。以前から、当協会で女性のコミュニティー活動をしている信頼できる方々に、運営側から依頼しています。
6期になって、元参加者メンバーからもファシリテーターが誕生しています。
チームタクトを開けばいつでもお互いの状況が見える 個人の変容と相互作用が自然に進む
ーチームタクトの活用方法を教えてください。
五十井:運営として、チームタクトで説明資料の格納場所ならびに、G-POPシートの配布をしています。チームタクトは、お互いが見えることが前提の環境になっているので、参加者は自然とほかの人のシートを見て、書き方が変わっていきます。
特に、「人生をかけたゴール」は、ほかの人がどのようなことを書いているのか、お互いの参考になっているようです。
中野:さらに、自主的に全体を通しての振り返りをしている参加者もいらっしゃいます。チームタクトに格納されているG-POPシートとコメントを初回から並べることで、新たな気づきを得ているとのことです。運営側は、チームタクトの一覧画面で交流状況を観察します。チームによってコメント数に濃淡がある状況が見て取れます。
ーなぜチームタクトを活用しているのですか? またどんなメリットがありますか?
中野:中尾塾で経験して、チームタクトの使いやすさを実感しました。ほかの人のシートを入力している段階でも見られること、コメントし合えることが気に入っています。
準備の負担もかからず、すぐに使えるので活用を提案しました。
五十井:情報セキュリティが厳しい企業が多い中、チームタクトはほとんどの企業で使えます。
また、開催にあたり参加者が迷わず操作できるような環境をつくる必要がありますが、コードタクト社の担当者が作ってくださったサンプルを複製して使うだけで、ゼロから自分たちで用意する負担がありませんでした。初めから困ることが全くなく、スムーズでした。
初対面でも話しやすい雰囲気 JUASらしさを醸し出す細やかな技あり
ー場づくりでどのようなことを大事にしていますか。
中野:セミナー初回に、自己紹介してもらう時間を設け、初対面でも打ち解けやすくなるよう心がけています。JUASさんはオンラインでのファシリテーションに長けており、場を和ませて、話しやすい雰囲気を作っていただけるので安心感があります。参加者が入ってきた際に声掛けをされたり、マイクとカメラのテストとして、聞こえてたら画面をオンにして手を振ってもらうといった工夫で、オンラインの場の緊張がほぐれていくのです。
五十井:中野さんからそのように見てもらえてうれしいです。以前は、参加者交流といえば、対面でお酒を飲むコミュニケーションが中心でした。しかし、コロナ禍でオンラインがそれを代替する場になりました。どうしたらオンラインでもコミュニティーを運営できるか考え、使える技を勉強しました。話しやすいコミュニティー形成を心掛けているところが、協会であるJUASらしい部分なのです。
チームタクトは、必要なシートを短時間で用意できる分、参加者に気配りする余裕が生まれているのだと思います。
中野:セミナー閉会後も、これまでの参加者が期を問わず、月1回火曜日の朝に「アサイチ会」で集まっています。テーマなどは特に設けずに、近況報告などを行っています。セミナーが終わってもコミュニティーが継続していることは、うれしいことです。
五十井:「アサイチ会」にはファシリテーターの人が積極的に参加してくれています。
中野:セミナー受講後、自社の女性リーダーを集めてG-POPぐるりを行っている人もいます。
女性リーダー育成の国レベルでの推進に貢献したい
ー今後の目標やこれから取り組みたいことはありますか。チームタクトをさらにどのように使っていきたいですか。
中野:女性リーダー育成は国家レベルの課題です。自信をもって女性が働きやすい環境をつくっていきたいと思います。このオープンセミナーのバージョンアップにも貢献していくつもりです。
G-POPぐるりを自社でも展開する人を増やしていくことにも引き続き努めていきたいです。
今後、女性だけに限らず、男性に広げていくことも良いかもしれないと思っています。
五十井:今後、G-POPぐるりとリーダー講演の2本柱で女性リーダー勉強会を充実させていきます。今年は、2日間でスキルを身に付ける勉強会とG-POPぐるりをセットで行う講座設計を考えています。リピーターやファシリテーターも増やしていきたいです。
男性、部長層などに広げていくことも考えています。
組織における少数派の活躍の推進 本心を出し合える場づくりが鍵
ーチームタクトをどのような組織でどのように使うのが良いと思いますか。
中野:女性管理職を増やしていきたい企業には、ぜひ導入してみてほしいですね。例えば、女性同士のメンター・メンティー制度において適用することで、女性社員同士で安心して相談できる場ができるとともに、社員の成長促進、組織間の交流が生まれると思います。
五十井:企業内にロールモデルが少ない職種において、異なる企業から同職者を集めて、安心と勇気を与え合う場を設けるのに使ってみてはいかがでしょうか。所属企業が違うからこそ、出せる本音があります。チームタクトを開くだけで、励まし合い、サポートし合う状態になれるのです。
中野:参加者の所属企業の上層部がチームタクトを閲覧すると、部下の悩みや望みを知ることができて、組織の育成のヒントになるのではないかと思います。
(注)
▼G-POPとは
「G-POP(ジーポップ)」とは、株式会社リクルートテクノロジーズの元代表取締役社長であり、株式会社中尾マネジメント研究所代表の中尾隆一郎氏が提唱している、高業績を挙げ続けられる人・組織の振り返りの型です。
「G-POP」とは、以下の4つの頭文字をとった造語です。
・Goal(ゴール・目的)
・Pre(事前準備)
・On(実行・カイゼン)
・Post(振り返り)
高業績を挙げ続けられる人・組織は、常にGoalを意識し、Pre(事前準備)に時間を使い、柔軟にOn(実行・修正)を行い、Post(振り返り)から成功・失敗のポイントを学び、仕事の成功確率を高めるとしています。
▼G-POPシートとは
G-POPの内容を記入するシートです。

▼グループリフレクション(ぐるり)とは
グループリフレクションとは、ファシリテーターの進行に沿い、個人が経験したことや気付いたことを共有し、グループで対話を通じて内省(リフレクション)を深める手法です。
発表者が行った振り返りの内容に対し、他の参加者が感じたことを伝えることで他者の視点に触れ、新たな気づきや学びを得ます。テキストや口頭で言語化することでお互いの業務や考えに対する理解を深め、関係性を構築・強化します。チームタクトではグループリフレクションを通じて、個人の内省力の向上と相互理解を深める場づくりを行う支援を行っています。