大成建設株式会社 管理本部 人事部 人財研修センター
人財研修センター長
田中康夫 様
※所属名称は取材当時の名称です。
育成制度・コミュニケーションに課題を感じていた大成建設株式会社。人財研修センター長 田中康夫さんは、育成制度改革の一環として、G-POP®版グループリフレクション(以下、G-POP®ぐるり)とチームタクトの全社導入を実施。全社導入前に、主に5年次社員を対象にG-POP®ぐるり導入検討プロジェクトを実施した。
本プロジェクトを推進した田中康夫さんに、スタート時の様子、導入から今後の取り組みまでの経緯を伺いました。
概要
<課題>
- OJTを実施しても、継続しない、形骸化する。
- 内容が不十分でトレーニーの側の成長実感につながっていない。
- 業界の人材不足問題対策として人材の定着を図りたい
<活用成果>
- 業務振り返りを継続的に行うことを仕組み化できた。
- トレーニーからは、「良い点、悪い点に気がつけた」「自己肯定感の高まりを実感した」などの声があがった。
- 若手社員同士コミュニケーションを促進し、関係性を向上に寄与。例年同時期と比較して離職は低下。
<チームタクト活用のポイント>
- 直感的な操作性のため、120名ほどの参加者への一斉導入でも操作に関する問い合わせがほとんどなかった。
- トレーニーの状況が素早くリアルタイムで把握でき、確認の手間が減った。
- 全国の拠点をつないで、どの場所にいてもコミュニケーション・メンタリングできる環境をつくることができた。
Off-JT(研修)だけでなく、「OJTも変える」
―大成建設G-POP®ぐるり導入プロジェクトが発足した背景を教えてください。
経営層は「自律的なキャリア形成」「先輩が後輩を育てる文化醸成・仕組み」に課題を感じていました。ある経営幹部から「育成と人事制度を一本化して欲しい」と依頼された私は、すぐに育成制度改革に着手。2023年7月当時、私はエネルギー関連の部署から人事へ異動したばかりでした。
Off-JT(研修)を中心に動いていたところ、OJTにも課題があると気がつきました。OJTには、取り組み不足、継続性のなさ、形骸化など、変えるべきポイントが複数あったのです。トレーニー側からも「成長実感が得られない」との声もあがっていました。
そこで、書店へ行き、OJTの本を端から端まで購入して、文字通りずらっと読んでいきました。読み進めるうちに、一風変わった本に出会いました。中尾さんの『自分で考えて動く社員が育つOJTマネジメント』です。
読了後の第一印象は「面白そう」でしたね。ほかの本には、OJTの定義など、一般的な話が書いてある中で、中尾さんの本には、G-POP®やグループコーチング(グループリフレクション)の話が出てきて、印象的でした。
しかも、全てオンラインで実施できるツール「チームタクト」の紹介も書いてあり、「各地の建設現場で働いている社員が多い当社に合っているな」とも思いましたね。
ー導入まで凄いスピードでしたね。スタートアップのようなスピード感だと思いました。
もともと2024年2月に、5年次研修が計画されていました。「この研修までにG-POP®ぐるりを実施できたら、全社導入前のトライアルになる」と思い、G-POP®ぐるりを事前課題にしました。
急遽決まった12月4日開催のグループリフレクションキックオフには、育成の一環として「5年次社員を研修に参加させるように」と各部門へ通達しました。11月中旬のことです。急に招集したので、出席できない社員もいましたが、欠席者には動画を見るように伝えて、全員の足並みを揃えました。
そうして、12月11日からグループリフレクションをスタート。オンラインで毎週1時間、4人1チームで集まり、G-POP®シート(※1)に基づいた振り返りを3か月間実施しました。
参加者の“意識と行動”が変化
仕事に対する気づきや自己肯定感UPも
ーG-POP®ぐるりを実施し、参加者自身にどのような変化がありましたか?
前向きな話が増えましたね。それが非常に良かったです。
開始当初、「G-POP®シートの使い方がよくわからない」と言っていた参加者も、チームタクト上のほかの参加者が書いたシートを見たり、私の振り返りを聞いているうちに、少しずつ理解していきました。
参加者の中には「自分なりに1つでも目標を立てて行動する」「目標を習慣化するために、前向きに取り組んでみる」社員も複数現れるようになりました。
また「成長を実感できた」「何をすべきか理解できた」「良い点、悪い点に気がつけた」という気づきや自己肯定感の高まりを感想にあげる参加者もいました。
ー田中さんも4、5週目にほぼ全てのチームに参加し、振り返りをされていましたよね。なぜ、プロジェクトオーナーである田中さんが自らチームに入ったのでしょう?また、参加してみていかがでしたか。
「始めたばかりなのに、レベルに差があるのは、どうしてだろう?」と気になったからです。また、私もグループリフレクションを実践していなかったので「実際にやってみよう」と思いました。
ほぼ全てのグループに、2週間(週11コマ)参加しました。実際に参加してみて、レベルが上がっている参加者は、週を追うごとに少しずつ変化していると気づきました。前週に書いた「次のアクション」を、次週に実行してみて、結果を振り返っていました。
これはすごい変化です。
“仕事”って、振り返らないですよね。やったら終わりになることが多いと思います。グループリフレクションでは、再現可能性と再発防止の観点で振り返りを行います。
「なぜ、うまくできたのか?」
「なぜ、うまくできなかったのか?同じことが起きたら、今度はどうするか?」
私自身、振り返りの仕組み化が成長を後押ししていると感じています。
場所が離れていてもOJTできる
コミュニケーションを闊達にするチームタクト
ー「チームタクト」でグループリフレクションを行うメリットは何でしたか?
書き途中のものがリアルタイムで見れるのは、すごく利便性が高いなと思いましたね。例えばExcelで個人個人に課題を渡すと、ファイルを格納して、開いて、ということを何度もしなければならない。それをしなくていいのは、メリットですね。
一覧画面でリアルタイムで状況をみることで、まず、回答が埋まっているかどうかをみて埋まっていそうな人から詳細を見に行きます。連続で次々に見れますから、手間が少ないなと感じました。
とにかくスピード感をもって進めていたのもあり、正直チームタクトの使い方は充分に説明ができないまま導入をしたのですが、クレームはありませんでした。これは、素晴らしいことですよね。私もなんとなく触ってみれば、こうやれば文章かけるんだ、こうして線を引くんだなど、操作はすぐわかりましたが、みなも直感的に操作できたのでしょうね。
また、チームタクトとZoomを使って遠隔でグループリフレクションを実施できるっていうのは画期的でした。弊社は、建設現場が全国にあります。通常OJTを実施する際には、メンターが物理的に隣にいる場面が多いと思います。この場合、コミュニケーションはその場、その人限りで途切れてしまいますよね。でも、オンラインであれば、北海道の人が九州の人をメンタリングすることもできる。まさに、DXです。
ーメンターの方はどのようにチームタクトを活用していましたか。
メンターも使い勝手がいいといっていました。メンターとしてグループのメンバーを見る際ももちろんですが、メンター同士でも、この人の内容がいいね、この人今忙しそうだけど大丈夫かな?など、そういう話が気軽にできるってのが、いいと思います。
グループリフレクションは「褒めてもらえる場」
参加者の自尊心・自己効力感が向上
ープロジェクトを進めて、どのような気づきやメリットがありましたか?
プロジェクトを進めていくうちに、当社にない発想を得られました。取り入れたいポイントが見つかった点もよかったですね。
当社は歴史ある会社のため、慣例に従っているケースもあります。例えば、会議は役職者が話し、そうでない社員はほとんど発言しません。
一方、グループリフレクションに派遣いただいたファシリテーターの方々は「人を褒める」「楽しい会議にする」という発想をもって、場をつくっておられました。グループリフレクションではファシリテーターは参加者の均等に発言を促す重要な役割です。グループリフレクションで振り返りをする前に、チェックインとして「24時間以内にあった感謝」を一人ひとりが話す仕組みがあります。どのグループも自然と前向きな雰囲気が醸成されていたのも、当社にはない仕組みだったので、良い気づきをもらえました。
参加者の中には「毎回たくさん褒めてもらえるので、自尊心が上がった」「自己効力感が上がるので、毎週のグループリフレクションが楽しみ」と言っていた社員もいましたね。
グループリフレクションの仕組みは素晴らしいですよね。「全員の発言量を同じにする」「話を遮らずに聞く」「発言の後は、“感じたこと”を共有する」というルールがあるので、マネージャーもメンバーの話をしっかりと聞くことができます。
部下が話をしているとき「きみの論理には矛盾がある」と水を差すこともできないので、マネージャーにとっても「聞く」を学ぶ良い機会になります。グループリフレクションは「話を聞くこと」が仕組み化されていて、素晴らしいと感じました。
効果を感じ、対象者を拡張
ー5年次社員向けの実施を経て、1、2年次へ展開しようと考えた決め手は何でしょうか?
G-POP®ぐるりの効果を感じたからです。目の前で、自律的に考えられる人に変わっていったので、「これはいい」と思いましたね。
2024年4月、メンター制度と組み合わせて1、2年次社員(120名)にG-POP®ぐるりをスタートさせました。
ーG-POP®ぐるりとメンター制度と組み合わせて、貴社独自の進化をさせたのですね。どんな方がメンターになったのですか?
4〜8年目の社員です。自ら「メンターになりたい」と立候補してくれた31人の社員にお願いしました。
立候補した理由を尋ねると「新人時代の自分が悩んでいた悩みと同じ悩みを持つ人がいれば、力になりたい」と話してくれました。「後輩の力になりたい」と、想いをもった社員が多くいるのです。非常にうれしいですね。
メンターは立候補した社員だけで構成されているので、みなモチベーションが高いです。先日実施した、メンター社員のキックオフでも、建設的な意見が複数あがりました。1時間では足りないくらいでしたね。
ー素晴らしいですね。1、2年次社員とメンター社員の方の斜めの関係ができるのもいいですね。
当社は縦割りの組織なので、今までは同じ配属先の先輩だけを知っている状態でした。ですが、メンターとは配属先が異なるため、斜めの関係ができていきます。“支店”や“同期”の関係ではない絆が深まるのではないかと期待しています。コミュニケーションが良くなっていくとうれしいですね。
さまざまなものが合わさった効果だとは思いますが、今回実施した1、2年次社員はすごく仲がいいです。 離職者も1人も出ていません。(2024年6月末現在)
課題を見つけるヒントにG-POP®の記述分析を活用
ーG-POP®レポート・G-POP®サマリのデータはどのように活用しましたか。
G-POP®レポートでは基準が示されるのがいいですよね。より良い振り返りを書くためのアドバイスで、文字量などはわかりやすい基準です。基準があることにより、自分の状況はどうなのかと振り返ることができるので、より振り返りを深めるきっかけになると思います。
G-POP®サマリでは傾向も見えてきました。今1、2年次社員に実施していて私が課題に感じているのは、ゴール設定とプレ(事前準備)の質です。まだまだ、ゴール設定がうまくできない社員が多い。業務ではゴールをしっかりたてなければ、結果や振り返りが実りあるものになりません。そんな課題に気付くきっかけになりました。
成長の輪を広げ、会社全体のパフォーマンスの向上へ
ー今後の展望を教えてください。
この取り組みに賛同してくれる方が増え、メンターやメンバーが人事の管理外でも自主的に取り組んでいるような状況になるのが理想です。一人ひとりが自分をきちんと振り返ることができるようになれば、自律的に成長すると思うのですよね。G-POP®ぐるりは成功体験が共有される仕組みです。ほかの人の真似してみようと、どんどん広まっていけば、個人の成長だけではなく、集団がパワーアップする。ひいては会社全体のパフォーマンスがあがる。私は、このような循環をつくることに貢献していきたいと思います。
こうした循環をつくるためには、メンター制度、グループコーチングの取り組みと、ツールとをうまく組み合わせるのが肝だと思っています。どれか1つが欠けてしまうと成り立たなくなってしまう。ぜひこのうまい組み合せの実現に力を入れていきたいです。
OJTやコミュニケーションを変えたい会社におすすめ
ーどのような企業にチームタクトを使ったG-POP®ぐるりをおすすめしますか?
そうですね、以下のような企業におすすめしたいです。
- OJTに課題感を持っている会社
- 社員のコミュニケーションに不安がある会社
- メンバー個人と組織全体の成長を可視化したい会社
当社は社内コミュニケーションの改革も進めています。経営層のコミュニケーションは変わってきていますが、経営層以下にも変化が生じるには、まだまだ時間がかかります。
グループリフレクションで5年次社員の笑顔を見たとき、メンバー層のコミュニケーションも変わっていくと感じました。笑顔で働く姿が至るところで見られるようになったら、仕事が楽しくなるのではないかと思います。
コミュニケーションを変えていきたい会社にもおすすめです。