部下育成には、通常業務とは別のスキルが必要とされます。さらに、部下育成と自分の業務を同時に行うことは、上司にとって大変な負担です。
しかし、目まぐるしく変化するビジネスに対応するには、スピード感を持って育成を進める必要があります。
プレイングマネージャーが自分の業務と並行しつつ、短期間で効果的に部下の成長を促すためには、一方的な指導ではなく、支援する姿勢が欠かせません。
この記事では、これからの部下育成に必要な上司の心構えや環境作り、身につけたいスキルなどを解説します。
部下育成に悩みを抱えている方は、指導ではなく支援する姿勢を取り入れて、即戦力になる人材を早期に育成する参考にしてください。
目次
部下育成の定義と重要項目
部下育成とは、「部下への指導」ではなく、部下の自発的な成長を促す「上司による支援」です。
上司は、部下が自ら考え行動できるよう目標を共有し、定期的な振り返りや達成度のこまめな確認を行いながら部下をマネジメントしていきます。
部下育成によって育まれた優秀な人材は、将来的に企業の生産性向上や業績アップに寄与し、競争力の強化や組織の活性化をもたらします。
また、部下の育成は、それを担当する上司にとっても、業績向上の立役者としての評価や育成スキルの向上につながる大きなメリットといえるのです。
さらに、管理職が部下の育成経験によって学ぶ意欲の高い人材を見分ける力を身につければ、即戦力採用による育成期間の短縮や離職率低減が見込め、採用時の投資対効果向上も期待できるでしょう。
部下育成でおさえるべき4つのポイント
部下育成の本質は、指導ではなく支援です。ここでは、部下育成を行うために欠かせない4つのポイントを紹介します。
心理的安全性の確保
「心理的安全性の確保」とは、チーム内で人間関係の悪化や意見の拒絶を受けることなく、安心して自分の意見や気持ちを自由に話せる環境を作ることを示します。
2012年にGoogleが行った調査「プロジェクト・アリストテレス」では、業績の高いチームほど心理的安全性が高いことが明らかにされました。
心理的安全性が高いチームには、「メンバーの発言が同量」「共感力が高い」という2つの共通点があります。関係の質の向上は思考の質、行動の質、結果の質の向上につながります。
チーム作りを行う際、上司は「褒める」「感謝する」「承認する」などの行為によって、部下のモチベーションアップに努めることが大切です。
建設的なコミュニケーション
部下育成にあたり上司に求められるのは、密なコミュニケーションによって信頼関係を築くことです。
揺るぎない信頼関係が結ばれることで、部下は上司からアドバイスをより受け入れやすくなります。
「あいづち」や「うなずき」で共感を示しつつ、「あいさつ」や「名前での声かけ」で部下の存在を承認し、良好な関係を築きましょう。
明確な目標設定
部下育成では、コミュニケーションを取りながら、部下の手が届くレベルの具体的な目標を設定します。
ただし、常に許容範囲内で行動していては、新たなスキルの獲得は見込めません。上司には、ときに部下にとって困難な課題を与え、必要なタイミングで部下が支援を得られるよう取り計らいながら、成長を見守る姿勢が求められます。
部下にチャレンジさせる場合は、焦らず取り組めるよう十分な時間を確保し、思いきって任せるのがポイントです。そうすることで、部下は困難な課題をやり遂げ、自らより高い目標を達成し、成長していけるようになるでしょう。
適切なフィードバック
部下の業務が終了したら、その都度フィードバックの機会を持ちましょう。
フィードバックの目的は、単なる仕事の成功や失敗の評価ではなく、改善点や課題を共有し、仕事の精度を上げることです。
部下がこれから担当する仕事や、その仕事に取り組むことで得られるキャリアを伝え、新たな目標へのモチベーションを高めていきます。
部下育成で上司に求められる重要な2つのスキル
過去、日本社会に蔓延していた上司から部下への「怒る」「威張る」といった威圧的な行動は、現在「モラハラ」として社会問題となっており、離職や業務停滞の要因として問題視されています。
著書『リーダーが変われば、チームが変わる』にて中尾隆一郎氏は、着実に部下を育成するには、上司が「PE(People Empowerment)」と「PM(Project Management)」のスキルを磨く必要があると述べています。
PE(People Empowerment)
PEとは、上司自身を含む「人のモチベーションを上げるスキル」です。
例えば、怒ったり気分で指示や判断を下したりする上司には、PEスキルが不足しているといえます。この場合、部下のモチベーションは低下し、組織運営にもネガティブな影響があらわれるでしょう。
逆に上司のPEスキルが高ければ、良好な人間関係が構築され、目標を達成しやすくなります。
PM(Project Management)
PMとは「業務を滞りなくこなしていくスキル」です。プロジェクトマネジメントのフレームワーク「PMBOK」の10ステップは、部下育成にも役立ちます。
以上のステップを踏むことで、目標を達成しやすくなります。
部下育成の4つの失敗事例とその原因から読み解く効果的な育成のポイント
部下育成には、「上司が部下に対して行う」という構造上、陥りやすい失敗がいくつか考えられます。ここでは、部下育成が思うように進まない原因を明らかにし、効果的な育成のポイントを導き出します。
事例1:内容が指示・指導に偏っている
部下を支援するつもりが、指示・指導に偏っている場合があります。部下が自ら考え行動に移す前に、解決や処理の方法を指示していませんか。
上司が先に答えを示せば、部下の自発的な成長機会が失われてしまいます。育成においては、直接的な指導の方がスムーズな問題解決につながるとしても、根気強く見守る姿勢が大切です。
事例2:高圧的な態度で部下を委縮させている
部下に対する態度が、気付かぬうちに高圧的になっている可能性があります。上から目線で接し、負の感情を露わにすることは、信頼関係の崩壊や恐怖心の植え付け、さらには「報告・連絡・相談」の滞りにつながりかねません。
上司の顔色をうかがう状況下では、部下は能動的に行動できなくなるため、「心理的安全性」が確保された良好な人間関係を築きましょう。
事例3:負担の軽い簡単な業務ばかり任せている
トラブルを避けようと簡単な業務ばかりを部下に任せると、モチベーションの低下を招きます。能力の範囲内で処理できる内容ばかりでは、部下の考える機会を奪うだけでなく、「期待されていないのではないか」といった誤解を生む可能性もあるでしょう。
難易度の高い仕事への挑戦は、大きな学びと成長につながります。上司は、万が一失敗した場合でも十分にフォローできる余裕を持ちつつ、積極的に部下にチャレンジさせましょう。
事例4:計画通りに進んでいないことを理由に育成責任を放棄する
計画がうまく進まなければ、諦めたくなる時もあるでしょう。しかし、一人ひとり能力も性格も異なる部下の育成を計画通りに実行するのは、決して容易ではありません。
部下育成では、実施しながらその都度計画を見直しつつ、部下に合ったアプローチに変えていく柔軟性が求められます。 伸び悩む時期は誰にでもあるため、長い目で見守り、育成の機会を逃さないようにしましょう。
部下が育つ!効果的な部下育成の5つのステップ
部下を効率的に育てるためには、部下に寄り添い、目標達成に向けてともに考え行動していく姿勢が求められます。
漠然と部下育成に取り組むのではなく、これから解説する5つのステップを踏みながら、着実に実行しましょう。
目標設定
目標設定では、部下の目標と達成時期を明確にします。コミュニケーションを取りながら目標を定めることで目指すレベルが明確になると、部下は足りない部分を自発的に補おうと努力するようになります。
目標設定の際には、やるべき業務とできる業務に加え、部下がやりたいことも加味しましょう。人はやりたいことに夢中で取り組める環境下において、より能力を発揮できるものです。
現状の確認
現状の確認とは、コミュニケーションを取りながら、部下の能力や知識レベルを把握し、できることとできないことを明確にすることです。
部下の現状を的確に把握することによって、目標達成を阻む課題が浮き彫りになり、適切な業務の割り振りや具体的な育成計画の設計をスムーズに行えるようになります。
育成計画
部下育成では、上司と部下がともに考え、計画を立てていくことが重要です。まずは、部下に与えた課題の中身や、課題をクリアする期限、到達レベルを定めましょう。
期限や到達レベルを決定することによって、目の前の仕事に優先順位をつけやすくなるため、目標達成に向けてより能動的に行動できるようになります。
計画の実施
計画が完成したら、いよいよ実施のステップに進みます。この段階になると、部下はこれまでのコミュニケーションによりある程度企業側が求める姿を理解できるようになっているため、自分の仕事に対する責任感も芽生え始めるはずです。
上司は、部下に仕事を丸投げするのではなく、必要なタイミングで的確なサポートを行います。場合によっては、部下の能力を超えた難易度の業務を任せ、成長を促すのもよいでしょう。
フィードバック・振り返り
実施後、目標と結果を照らし合わせてフィードバックを行います。フィードバックでは、仕事の成功や失敗の評価だけでなく、その理由を深掘りすることが重要です。
成功した場合は再び同じ結果、あるいはそれ以上の成果を得られるようポイントを確認し、失敗した場合には過ちを繰り返さないよう予防策や対処法を確立し、次の仕事に活かします。
フィードバックの最大の目的は、成果を分析し次の仕事を高い確率で成功に導くことです。
部下育成を成功に導く4つのマネジメントスタイル
部下のマネジメントスタイルは、「人」ごとではなく「ミッション」ごとに選ぶのが適切です。
SL(Situational Leadership:状況対応型リーダーシップ)理論の提唱者であるケネス・ブランチャードは、『1分間リーダーシップ』(ダイヤモンド社)にて4つのマネジメントスタイルを挙げています。以下に、部下育成を成功させるためのマネジメントスタイルを4つ紹介します。
指示型
指示型は、処理能力と経験が低く、高い意欲を持っている場合に選択します。
指示型のマネジメントは、指示が多く援助は少なめです。上司はきめ細やかに指示・調整・監督し、部下はこまめに上司へ報告・連絡・相談します。
このスタイルでは、上司が部下の技量に合った仕事を割り当て、業務の共有や相談の受付を行うための十分な時間を確保することが必要です。
コーチ型
コーチ型は、処理能力と経験が中レベルで意欲が低~高レベルの場合に使います。
援助も指示も多いコーチ型のマネジメントでは、部下が自ら考えるよう促し、定期的な報告を求めます。
ティーチング・コンサルティング・トレーニング・メンタリング・カウンセリング・指導などから適した方法を選び、効果を観察しながら進めていきましょう。
援助型
援助型は、処理能力と経験が高いものの、意欲は低~中レベルの部下に合うマネジメントスタイルです。
援助型のマネジメントは指示が少なく援助が多めなことから「サーバントリーダーシップ」とも呼ばれます。部下主導で仕事を進め、上司は定期的に報告を受けます。
報告には「褒める」「さらなる行動を促す」といった態度で対応し、部下のモチベーションアップに努めましょう。
委任型
委任型は、処理能力や経験、意欲が高い部下に適したスタイルで、指示と援助が少ないタイプです。
委任型のマネジメントでは、仕事の目標やルール、してはいけないこと、報告の頻度を確認します。これは、部下の自由な発想・行動の限度や、上司の確認権限を共有するための重要なステップです。
この共有により、両者の認識のずれや行動のすれ違いを防げます。
まとめ
部下育成には、上司と部下の密なコミュニケーションが欠かせません。部下の能動的な行動を引き出し成長を促すためには、上司からの一方的な思いだけではなく、部下の理解が必要です。
しかし、自分の仕事を進めながら何人もの部下を抱えれば、上司の負担は相当な大きさとなるでしょう。
「チームタクト」が提供するメソッドは、チームで業務を振り返ることで、1on1より負担が少なく、多くの学びが生まれるものです。また、定期的に自分の業務を振り返る習慣が身につくことで社員の成長を促すことができる、チームの各メンバーが自発的に成長するシステムを提供しています。
部下育成に関する悩みを抱えている方は、育成担当者の仕事を軽減し、個人だけでなく組織の成長も促す「チームタクト」をご検討ください。
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<参考文献>
中尾隆一郎(2003)『リーダーが変われば、チームが変わる メンバーの力を引き出す100のメソッド』労務行政